平成20年(行ウ)第9号 建築確認処分取消請求事件
原 告 佐 藤 上 外5名
被 告 熊本市
準 備 書 面 (6)
平成21年3月5日
熊本地方裁判所民事第2部合議B係 御中
〒861-2105 熊本市秋津町秋田3442-40
(送達場所) 原 告 佐 藤 上
電 話 096-365-6218
FAX 096-365-6218
mail noboru@laketown.pc-door.com
同 * * * *
同 * * * *
同 * * * *
同 * * * *
同 * * * *
第1 被告釈明への見解(反論)を述べ,第2 原告らの主張を補足する。
第1 平成21年2月23日付被告「求釈明(2)に対する回答」について
1 被告が都市計画法上の適合性の審査をしたかどうか。
① 本件建築確認は当初建築確認における建築計画の変更に係るものであるが,原
告らが訴状で述べているように,当初建築確認が建築基準法令に適合するもので
あることを所与の前提として,変更に係る部分についてだけ法令への適合性を判
断すればよいというものではない。建築計画の変更による「新建築計画」全体に
ついて改めて法令への適合性を判断し,建築主事が確認できた場合に当初建築確
認は新しい本件建築確認に更新され生まれ変わり,当初建築確認は消滅する。本
件建築確認は,「新建築計画」の飲食店建物全体としても,変更に係るテナント
の中華料理店部分だけとしても,いずれも都市計画法上の適合性を審査していな
いというのであるから,建築確認処分の要件を欠いている。
② 仮に本件建築確認が,当初建築確認処分を前提に,変更に係る部分についてだ
け法令への適合性を確認することにより,当初建築確認処分と一体として当該建
築物に係る「新建築計画」の適合性を確認する効果を有するか,若しくは原告ら
が仮定した「本件建築確認に係る都市計画法上の適合性の審査は当初建築確認に
おける市長の判断・処理を流用」できる,と解すとしても,「焼鳥屋」の当初建
築確認における市長の都市計画法第29条(開発許可基準)及び同第42条1項
ただし書「許可を要しない。」との判断・処理について,それが適法かどうかを
含めて建築主事は実質審査をしなければならない。当初建築確認において同審査
をしていないというのであるから,建築確認処分の要件を欠いている。
③ そして,当初建築確認において前置された都市計画法上の市長の判断・処理は,
原告らが準備書面(4)で挙げた事由により違法なものである以上,その違法原
因で構成する当初建築確認処分には瑕疵あることとなり,同確認処分を前提とす
る本件建築確認処分も,結局,違法であることを免れない。
④ もっとも,市長の都市計画法上の「許可を要しない。」との判断があるとき(「処
分性」の問題は,3 で述べる。)建築主事は (ア) 建築確認の審査で市長の同判
断に拘束されるのか,あるいは (イ) 独自に建築許可の要否を審査できるのかと
いう論点については,判例でも見解が分かれている。建築主事による実質的審査
に肯定的なものとして大分地裁(昭和59年9月12日,判例時報1149号1
02頁),京都地裁(昭和62年3月23日,判例時報1232号77頁),大阪
高裁(昭和63年9月30日,判例時報1304号82頁)等があり,否定的な
判決として,仙台地裁(昭和59年3月15日,行集35巻3号247頁)があ
る。また,訴状で引用した平成17年2月23日横浜地裁判決(判例自治265
号83頁。被告横須賀市は控訴せず確定)では,建築主事の実質的審査には否定
的な解釈をしつつも,市長の処分(「開発許可を要しない。」との「60条証明書」
を交付)の過誤を指摘し,当該建築確認処分を取消した。これは,建築主事のす
る建築確認審査に前置する市長の都市計画法に係る審査の瑕疵が建築確認の取消
事由と認められる裁判の口火を切った判例であるが,この点本件において,市長
は建築主事の実質審査を肯定する主張をし(開発審査会裁決書,甲第15号証。
訴状5頁「2 建築主事と市長の都市計画法上の権限範囲の解釈の誤り」等),建
築主事は逆に実質的審査に否定的な主張をしている(建築審査会裁決書。甲第1
0号証)。被告の行政組織内部でこのような「自分の権限,領分ではない」との
キャッチボールが行われていること自体が異常であるが,原告らは結局,建築主
事のなした処分の瑕疵に収斂して,被告のなした判断・処理,行政処分の違法性
を主張する。
⑤ 被告の釈明は,当初建築確認における市長の都市計画法第29条あるいは同第
42条1項ただし書「許可を要しない。」の判断が違法ではないことを何らの根
拠もなく,しかし大前提としている。建築工事途中の計画変更により,当初焼鳥
屋として審査した本件建物の内容が変更になり,新しく焼鳥屋だけではない店舗
の計画が確認申請されれば,その建築計画が土地用途に適合しているかどうかを
審査しなければならないのは当然である(そのために建築主事は「当初確認処分
の際,工事途中においてテナントが決定したら確認の変更手続を申請し,確認を
受けてから工事を続行する旨の誓約を交わしている。これは建築基準法第6条の
手続規定の趣旨を鑑み,法の目的を担保する合理的な運用として準用しているも
のである。」と主張しているのである〔甲第10号証,建築審査会裁決書〕。)。瑕
疵ある確認処分をそのまま引継ぐような変更確認処分を「法令が予定している通
常の処理」とは言えるものではない。
2 予定建築物と判断した根拠,または「店舗」の基準
① 原告ら準備書面(5)に既に述べたとおりである。あらゆる面で,スーパーマ
ーケット駐車場に計画される飲食店建物が開発許可に係る予定建築物と解される
余地はない。
② 店舗用地における店舗の床面積の制限が1,500㎡以下と定められている
のであるが, (ア) 熊本県の「市街化調整区域の許可基準」による店舗の床面積
の定義は,(旧)大店法第2条1項に定められた「店舗面積」(荷捌き場,調理場,
ストックヤード等を除く売場面積〔小売業務に供する部分〕の合計)であり,そ
のことの証として,当該スーパーマーケットが建築当初から1,500㎡を超え
る建築面積2,032㎡で建築されているものであること(甲第16号証), (イ)
さらに,建築主事が当初建築確認及び本件建築確認処分をなした時点の大規模小
売店舗立地法に基づく登録届出で,店舗面積が2,032㎡となっているのであ
るから(甲第63号証),被告の言う「1,500㎡以下」の床面積制限が用途
地域の定義と関連し,「第二種中高層住居専用地域と客観的に裏付けられる」数
値と判断できるものではない。(大規模小売店舗立地法に基づき登録届出のある
駐車場収容台数は,本件建物建築着工以前の157台と確保されており(甲第6
3号証),これは駐車場現地の白ペイントで引かれた駐車枠数と合致する。)
③ ガソリンスタンド,タクシー営業所,銀行,床面積1,500㎡以下の店舗(駐
車場付きスーパーマーケット)がA地区で許容されるのは,都市計画法第34条
10号イに基づく住居用宅地造成のための大規模開発の開発区域の(住民の生活
のための)公益的施設としての建築物の規模の熊本県(市)の許可基準があるか
らであり(甲第46号証5-14頁,甲第47号証,甲第69号証〔熊本市大規
模開発行為の取扱い方針〕第二章-13頁15行目),これらが,開発行為者が
計画した予定建築物であるからであって,第二種中高層住居専用地域を想定した
というものではない。もし県知事が同用途地域を想定して建築物の形態制限を指
定したものであれば(甲第3号証),B地区に指定された制限の文言と同様に「第
二種住居専用地域に建築可能な用途とすること。」あるいは「第二種住居専用地
域に建築可能な『店舗』とする。」と記述されていなければ理屈に合わない。な
お,ガソリンスタンド,タクシー営業所,銀行は「例示」ではなく,大規模開発
区域における位置の特定された一意の,個別の予定建築物である。同法第42条
はこのような仕組みで住居の環境,住民の利便の保全を図っているのであって(甲
第65号証,「国交省開発許可制度運用指針,20頁下~22行目 (8) 」参照),
これらは他の市街化区域とは離れて位置する市街化調整区域である大規模な開発
区域の商業エリアに用途地域を想定すると,間尺に合わず本件のような誤解と違
法が生じる危険性があるから,その防御の一策として県知事がわざわざ採用した
仕組みである。仮に行政が市街化調整区域を用途地域的に扱い,店舗が第二種住
居専用地域に準じて許可を要することなく建築できるのであれば,国土の10%
以上を占める市街化調整区域中,この熊本市秋津町のA地区においてのみ建築規
制が除外されることとなる。そんな理不尽なことがあり得るわけがない。
④ 被告は,当該「店舗用地」における店舗の基準について,これを都市計画法第
34条「1号店舗」であると主張していたかと思えば,次には第二種住居専用地
域に認められた店舗であると主張する。あるいは同法第43条による例外許可の
例を唐突に持ち出して主張する等,いずれが真の主張なのか判然としない。百歩
譲って解釈しようとしても,これらはすべて同法第42条1項ただし書許可の申
請があった場合の審査基準のことであろうか…としか想像できず,このようない
い加減なものが予定建築物の判断基準となる余地はない。これでは,市街化調整
区域で用途地域の定めのない開発区域に適用されるべき都市計画法第41条や同
第42条の仕組みが全く機能せず,まるで都市計画上の線引きを無視し,用途地
域が定められたものと同様の扱いがされようとしていることの証でさえある。(開
発審査会口頭審査における「開発後は市街化区域の扱いをする。」「開発区域では
なくなる。」「大規模開発ではすべて用途地域を設定している。」の被告陳述どお
りが示現しており,これらはすべて違法である。)
3 「60条証明書」の意義
① 原告らの言う「60条証明書」とは,被告の解釈のとおりの証明書である。同
証明書の省略は,全国でも例をみない。建築確認申請に先立ち,申請者が手続き
に遺漏ないように「チェックシート」「照合票」のような書式を準備することは
あっても,この便宜的な書式を熊本市が行っているような「建築確認申請事前調
査報告書」として,法律で定められた証明書の代わりの価値を与えるものではな
い。すなわち,チェック欄(□)の項目には「『60条証明書』の手続きをした
か?」という項目を設けてチェックするのは便利であろうし自由であるが,これ
を行政が「許可を要しない。」との審査の判断に利用するのは,法令に定められ
ていない手続きであり,違法であると断じるほかない。
② 「熊本市都市計画法施行細則」(甲第67号証)第22条において,「60条証
明書」の申請手続を定め,その申請書書式も付している(甲第68号証)のであ
るから,同手続きによって交付される書面が都市計画法施行規則第60条に定め
る唯一の「都市計画法…の規定に適合していることを証する書面」である。被告
が釈明で主張している「建築確認申請事前調査報告書」は,いずれの規則,細則
にも定められていないから,熊本市独自の,内部の組織間で使用する,便法的書
式であろうから,公にされたものとは解されない。そうすると,本件建築確認に
係る同「60条証明書」が提出されていない以上,開発許可基準において県知事
が指定し締結された建築協定に定める,秋津レークタウンの建築用途制限に適合
しているか否か,及び都市計画法第42条1項ただし書許可があったか否か,許
可を要するか否か,の審査をしていないことと解するほかない。
③ 本件建築確認においては,「60条証明書」は,許可があったか否か,許可を
要するか否か,を判断する上で重要な証明書であり,その交付申請があった場合
は,交付するかしないかの処分をしなければならないものである。すなわち,建
築確認申請に際し,許可証若しくは「60条証明書」が添付されれば,都市計画
法上の課題について市長の処分があったとされ,添付されていなければ建築主事
は自ら判断をするために実質審査をしなければならないという関係がある。「6
0条証明書」の交付処分が直接行政不服審査法第2条1項に定める「処分」であ
るとして不服審査を請求したり訴えを提起できるとは解されないものの,同証明
書の有無によって国民の権利が大きく左右されるものであるから,法的な根拠の
全くない熊本市の方式は,同規則第60条の「適合証明書がないと建築確認がで
きない。」という法律上の巧みな仕組みを無視し,壊すもので違法である。
④ 被告は「現状においてはほとんど(『60条証明書』の)請求がないことを付
言しておく。」と言うが,行政が「300円必要です。事前調査報告書だと簡単
でお金もかかりませんよ。」と指導すれば,100%の申請者が指導に従うであ
ろうことは火を見るよりも明らかである。行政処理,事務の迅速化,合理化,法
令についての助言・指導や的確な運用は,法令を遵守することで円滑に進めるこ
とができるのであって,目先の300円とかの節約が問題なのではない。被告が
言っているのは,単なる手抜き行政である。「300円」の理屈がいかに的外れ
かを熊本市の建築許可等の「手数料一覧表」で提示しておく(甲第66号証)。
参考: 「横浜市建築確認関係チェックシート」の注意書き
※ このチェックシートは,横浜市が建築基準法及びその関係規定の内容に
ついて審査するものではなく,事前の協議・届出漏れがないかどうかをチ
ェックするものです。上記項目に掲げられていない関係規定についても,
自主的に確認してください。
第2 原告らの主張の補足
1 建築協定に関する被告の認識について(甲56,57,58,59,60)
① 建築協定に違反する本件建物(飲食店店舗)の工事が着工されたことから,当
時,原告らを含む住民が熊本市建築指導課に出向き,経過の説明を求めて話合い
をしたところ,担当の市職員から「建築協定に反している建物でも,建築協定運
営委員会が認めれば『その限りでない。』という例外があるのだから,その建物
も建築可能となる。」との発言があり,その場で原告佐藤上が抗議をしたところ,
「確認して後日回答する。」との建築指導課長の対応であった。
② 平成18年8月9日付,建築指導課長より公文書で回答が原告佐藤上にされ,
この中で,「熊本市内の他の建築協定には例外規定のある協定もあるが,秋津レ
ークタウン建築協定については,そのような記述はございません。」と自らの誤
った解釈への反省と謝意を明確に示した(甲第56号証)。
③ 被告はこのような回答をしたのにもかかわらず,熊本市議会平成18年第3回
建設委員会(同年9月14日)の陳情に対する審議の中で,同建築指導課長本人
が「自治会長名で同意書が出されましたので,確認申請書を受け付けまして…確
認をおろしたものでございます。」と,何人が同意しようとも建築協定に反する
建物は建築できないことを右 ② で十分承知しているのに,同人は同趣旨の発言
を繰り返した(甲第57号証)。
④ 平成19年7月23日に被告は原告佐藤上との電話で,また同年9月7日に中
華料理店の仮使用承認のための検査の時にも,「自治会長の同意書が出ている。」
ことを声高に主張した(甲第7号証,甲第9号証等ほか多数)。
⑤ 建築工事と並行して進んでいる建築協定違反の「建物撤去請求事件」裁判にお
いて,被告である訴外会社社員から「熊本市建築指導課で自治会長と住宅生協理
事長の同意書を添付するように行政指導を受けた。」との証言がなされ,結果的
に平成20年6月26日,同裁判の判決で熊本市建築指導課の同指導が事実認定
された(乙第10号証,同判決文25頁下から11行目及び最下行~26頁)。
⑥ 以上の経過によれば,被告は秋津レークタウン建築協定に「協定運営委員会が
認めれば,例外的に協定に反している建物も建築可能となる。」と誤解していた
間だけでなく,右 ② のように建築協定の内容を正しく把握,十分承知した後も
その組織において建築協定に反する行政姿勢を続けているものである。このよう
な行政姿勢を鑑みると,熊本県が市街化調整区域の開発許可基準に定め(甲第4
6号証),県知事が指定した「建築協定を速やかに締結すること」(甲第1号証)
によって締結された建築協定に定められた用途制限を無視し,これに反する建築
物を予定建築物であると強弁して,都市計画法第42条1項ただし書「許可を要
しない。」と判断・処理したことは,行政による不法行為であると断言するほか
ないのである。
2 他行政庁における開発許可基準について(甲62-1,同-2,同-3)
① 原告らと被告の間で,開発区域における「土地用途」及び「店舗」の解釈には
大きな開きがある。また,開発許可に係る「予定建築物」の解釈も被告からその
判断基準は明確にされていないから,埼玉県「開発許可制度の解説」(抄),千葉
市「市街化調整区域における開発行為等基準」(抄)及び大分県「開発許可制度
の解説」(抄)を証拠として提出した(甲第62号証-1,同-2,同-3)。
② 埼玉県では,都市計画法第42条1項に係る制限の趣旨及び制限を受ける行為,
予定建築物等であるか否かの判断及び同項ただし書許可の性格,立地基準等が詳
細に解説してある(甲第62号証-1)。千葉市では,開発区域における「店舗」
の定義を詳細に解説してある(同-2,3頁下から18行目)。また,大分県で
は,同項ただし書許可の建築物の分類区分が詳細に示してある(同-3)。
③ これらの他行政庁の例によれば,市街化調整区域の開発許可基準及び開発後の
建築許可基準の運用に当たっては,厳しい用途制限等を定めている実態があるの
がわかる。特に,開発区域の予定建築物が単なる「店舗」とされる例はなく,物
販店であっても販売する物品を捉えて「○○を販売する店舗」とする等,子細に
区分している。したがって,本件のように「スーパーマーケットという物品販売
の大規模小売店舗」と「焼鳥屋」又は「中華料理店」が同一の店舗として, (ア)
予定建築物と定義される例はないし, (イ) 都市計画法第42条1項ただし書許
可の審査に当たって,「用途の変更がない」と解釈される余地はないのである。
以 上
|
|