平成20年(行ウ)第9号 建築確認処分取消請求事件
原 告 佐 藤 上 外4名
被 告 熊本市
準 備 書 面 (8)
平成21年4月10日
熊本地方裁判所民事第2部合議B係 御中
〒861-2105 熊本市秋津町秋田3442-40
(送達場所) 原 告 佐 藤 上
電 話 096-365-6218
FAX 096-365-6218
mail noboru@laketown.pc-door.com
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原告ら主張を補足する。
第1 被告提示の書証等の誤用について
(1) 被告が提示している国土交通省の「開発許可制度運用指針」(乙第12号証)
は,平成19年11月30日施行の改正都市計画法に基づくものであり,本訴え
に係る主張等には適用できない。原告らは,同改正前の「国総民第9号(平成1
3年5月2日)国土交通省総合政策局長通知」(甲第65号証)を提示した。し
たがって,被告第2準備書面3頁最下段「(乙12)のⅢ-6-2(3)」は「(甲
65)のⅢ-6-2 (2)」とし,また同書面4頁11行目「(乙12の28頁の
(5))」は「甲65の18頁の (4)」として,読み替えるべきである。
(2) 被告が提示している「宅地区画割平面図」(乙第9号証)は,原告ら準備書面
(5)等で既に反論,証明しているように,本件建物が開発許可に係る予定建築
物であるかどうかの審査をする上では無意味なものである。予定建築物の用途は
本来,行政の責務として,都市計画法第46条及び同第47条により,開発登録
簿に登録記載され,公にされていなければならないが,被告はこれを怠っており,
このような場合でも敢えてA地区の予定建築物を推し量るには,県知事の指定す
る建築制限(甲第3号証)及び開発登録簿の添付図(甲第54号証)によるべき
である。原告ら準備書面(5)で詳しく主張したが,念のため述べ添える。
第2 行政の裁量権の逸脱または濫用について
(1) 既に述べたように,平成12年4月1日に施行された「地方分権一括法」によ
り,機関委任事務が廃止され,都市計画法に基づく開発許可等の権限は自治事務
に移った。しかし本件秋津レークタウンに係る開発許可は,最終的に第3工区の
工事が完了した平成5年当時においても,国の機関委任事務としてなされたもの
であり,原告らが主張しているような,同法第41条2項及び同第42条に係る
当該開発区域に開発後将来的に適用される,県知事の指定する建築制限(開発許
可基準でもある。甲第3号証)の判断には市長の行政裁量の及ぶ余地はない。仮
に同裁量が及ぶとしても,これは無限定なものではなく,行政事件訴訟法第30
条の定めるところ,裁量権の範囲を逸脱し又は濫用したときには違法となる。近
時の小田急線高架化訴訟では次のように判示している(最高裁第一小法廷平成1
8年11月2日判決・判時1953号3頁)。すなわち,当該処分が「裁量権の
行使としてなされたことを前提として,その基礎とされた重要な事実に誤認があ
ること等により重要な事実の基礎を欠くことになる場合,又は,事実に対する評
価が明らかに合理性を欠くこと,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しな
いこと等によりその内容が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くものと認めら
れる場合に限り,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法とな
るとすべきものと解するのが相当である。」としているのである。
(2) 本件建築確認に先行して,被告により土地用途の適合性が審査されるべきとこ
ろ,原告らの提示した証拠で,次のような判断根拠により都市計画法第42条1
項ただし書「許可は不要」との判断・処理がなされたこと,そしてこれらは「す
べて行政の裁量権の範囲である。」と主張していることが明白である(甲第7号
証及び甲第38号証。開発審査会処分庁弁明書)。しかも被告自ら,「この判断・
処理には処分性がないから,確定力,公定力がなく,建築主事が改めて実質判断
をする権限を有している。」とも主張している(甲第49号証)。
① 被告は,「本件建物が同法第34条1号に該当する(「1号店舗」)飲食店店舗
である。」とか,過去の同法第43条による許可の事例を挙げ,「開発許可申請の
手引き」によらずに,個別に判断した。
② 被告は,「用途地域は(開発登録簿に記載はされていないが)B地区が第一種
低層住居専用地域に準ずるとの県知事の指定があること,及び建物の現状からA
地区は第二種中高層住居専用地域に該当するから,この土地での店舗・飲食店の
建築は問題ない。」と判断した。
③ 被告は,「開発工事が完了すると,その区域は開発区域ではなくなる。法律等
による開発区域としての保護・制限の適用がすべてなくなり,都市計画法施行令
第27条の開発区域内での購買施設を含む公益的施設の確保の義務の制限はなく
なる。同定めは開発許可の時点での制限に過ぎない。」と判断した。
④ 被告は,「市として,開発後は市街化調整区域でなく一般の市街化区域に準じ
て扱う。」と判断した。
(3) 右 (2) の行政庁の判断・処理自体が「処分」とは言えないものの,後行処分
である建築主事の建築確認が同市長の判断・処理に依拠してなされたものである
以上,右 (1) の最高裁の判示によれば,建築主事の建築確認の処分に収斂して,
(ア) その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を
欠くことになる場合,又は, (イ) 事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこ
と, (ウ) 判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内
容が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くものと認められる場合,と解される
から,また加えて,都市計画法第41条2項または同法第42条1項に違反した
者には同法第92条4項ないし6項により,50万円以下の罰金に処されるよう
な重大なものであり,被告のなした建築確認という行政処分は裁量権の範囲を逸
脱し又はこれを濫用したものとして違法となると解される。
第3 都市計画法第41条,同第42条及び第79条の附款の解釈について
(1) 本来,他の大規模開発の該当開発区域と同じく,開発登録簿に登録記載されて
いなければならないものであり,これが疎かになっていることからわかりにくく
なっている。他行政庁と比較して,熊本市には細則等の定めが不十分であるが,
都市計画法第41条1項の形態制限は,講学上の附款に相当し,同法第79条の
附款との使分けは,第41条は「開発許可」に際して付加するもの,また,第7
9条は,個別に市長が同法に基づく「建築許可」に際して付加するものであり,
これは工事完了後にまで効力を持つものではなく,また許可を受けた者以外の第
三者にも効力が及ぶとは言い難い(建設省建設経済局民間宅地指導室監修「改訂
7版 開発許可制度の解説」322頁〔平成12年〕。なお,これは当時の国の機
関委任事務によるものである。)。
(2) したがって,被告が主張する「第79条」は根拠もなく他の開発区域との間で
差別的扱いを加えるものである。この結果,県知事の指定する開発区域に適用す
べき建築制限が建築基準関係規定に該当しないことになり,本訴えでの建築主事
の建築確認審査の瑕疵の指摘を回避するため,また「第41条」2項ただし書き
から導かれる原告らの法律上保護されるべき環境の保全の主張,つまり原告適格
も否定するためと思量されるから,これらのためだけの,ためにする主張である
と解さざるを得ない。
第4 建築主事の果たすべき役割について
本訴えの審理途中の平成21年2月24日,世の中を騒がせた耐震強度偽装事
件で興味深い判決が名古屋地裁であった。建築主事の建築のプロとしての注意義
務について,本件と通じるものがあるので,敢えて報道の内容を次に掲げておく。
参考: 新聞報道(朝日新聞2009年2月25日)
姉歯秀次・元一級建築士による耐震強度偽装事件で,強度不足が判明して
建て替えられた愛知県半田市の「センターワンホテル半田」の経営会社「半
田電化工業」(中川三郎社長)が,建築確認をした県とコンサルタント会社
などに総額約5億1,600万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が24日,
名古屋地裁であった。戸田久裁判長は,審査に過失があったとして県などの
責任を認め,約5,700万円の支払いを命じた。一連の事件で,強度不足
を見逃したとして行政の責任が認められたのは初めて。判決で戸田裁判長は
建築確認審査は「危険な建築物を出現させないための最後のとりで」で,建
築主事には建築主の信頼に応える専門家としての注意義務があると指摘。
「設計上の問題について調査すべき注意義務を怠った」と述べた。一方で,
当時は最長21日以内に審査するよう求められており,時間的制約に加え技
術的基準は多岐にわたり,すべての項目を審査するのは困難だった,とも述
べた。判決はまず,建設省(当時)監修の「建築構造審査要領」などを基準
に審査する義務があったと指摘。その上で,基準に沿い,耐震壁の強度や設
計型式について,具体的に検討した。10階建てホテルの2~10階の耐震
壁については,強度を満たすとした姉歯・元1級建築士の設計について,「建
築の専門家としての常識的判断に反し明らかに不適切」「構造図を見れば明
らかで,建築主事は通常の審査で容易に発見できたのに放置または看過した」
と指摘した。耐震壁がなく柱だけで支える1階の「ピロティ」の構造につい
ても,阪神大震災で倒壊の危険性が指摘されたため,県が原則として禁止し
ている型式で,技術的基準に反するとした。「大災害の貴重な教訓として確
認された設計上の重要な注意事項」で留意がとりわけ必要なのに,建築主事
は設計者に問い合わせもしなかったと指摘した。これら設計上の問題につい
て調査しなかったことが,建築主事としての注意義務違反にあたると結論づ
けた。県などの賠償責任の範囲については,補強すれば建て替えの必要はな
かったと指摘して,耐震補強工事費用分などにとどまるとした。その額は約
2億5千万円で,すでに施工業者から2億円の弁済を受けているため,残り
を最終的な賠償額と認定した。(原告ら注:その後,県は控訴している。)
以 上
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